スマホでかんたん貸出管理
カシカン
無料から使える貸出管理サービス「カシカン」の使い方を紹介しています。
カシカンの利用・登録はこちらから。
文科省「脳科学作業部会」第10回 デジタル脳を再定義、中核拠点の研究戦略を整理

文科省「脳科学作業部会」第10回 デジタル脳を再定義、中核拠点の研究戦略を整理

はじめに

文部科学省は、脳科学作業部会の第10回会合を開き、「脳神経科学統合プログラム」の現状と今後の方向性を確認しました。今回の大きな論点は、中核拠点で進める「デジタル脳」をどう定義し、どこまでをその範囲に含めるかを整理し直したことです。
会合では、予算や研究の進捗に加え、海外の脳研究動向、そして中核拠点と個別課題の連携の考え方も共有されました。デジタル脳を、従来より広い意味で捉え直す方針が示されたことが特徴です。

「脳神経科学統合プログラム」の現在地

事務局は、脳神経科学統合プログラムの進捗を報告しました。令和8年度予算は67億円で、前年度比2億円の増額です。さらに、令和7年度補正予算として2億円が措置され、研究設備の整備に充てられました。
このプログラムは、これまでの脳科学研究を引き継ぎつつ、複数の事業を一体的に進める枠組みとして整理されています。会議では、平成25年頃の「脳プロ」から始まり、「革新脳」「国際脳」「脳とこころの研究推進プログラム」を経て、現在の「脳神経科学統合プログラム」に至る経緯も説明されました。
また、前回の中間評価では、事業の必要性・有効性・効率性が十分にあるとして、継続すべきとの評価が示されています。研究環境の整備や、神経疾患・精神疾患の診断・治療への貢献が期待されていることも改めて確認されました。

脳研究を取り巻く政策動向

国内外の政策動向としては、創薬・先端医療、AI for Science、AI・データ利活用が主要テーマとして共有されました。政府部内では、日本成長戦略会議などを通じて、医薬品アクセスの確保や感染症対応、バイオ技術関連製品の国産化などが検討されており、ライフサイエンス分野の位置づけが高まっています。
あわせて、AI for Scienceに関する取組も進められており、研究開発プロセスの高度化や効率化を進める方針が示されています。今回の作業部会でも、こうした政策動向とデジタル脳の研究をどう接続するかが背景にありました。

海外では「brain health」がキーワードに

JSTの辻フェローからは、海外の主な脳研究プロジェクトの動向が紹介されました。G7では「brain health」や「brain economy」が重要なテーマとして扱われており、脳の健康をQOLだけでなく、社会や経済の基盤として捉える動きが広がっていると説明されました。
各国の動向は、次のように整理されました(海外の主な脳研究プロジェクトの動向と展望-p.2)。
  • 米国:BRAIN Initiative、BICAN、AMPなどで基礎研究や技術開発を推進
  • 欧州:Human Brain Projectの後継的なEP BrainHealthや、EBRAINS 2.0で基盤整備を強化
  • 中国:China Brain Projectを軸に、脳アトラス、疾患研究、脳型AI・コンピューティングを推進
  • 英国:アルツハイマー病や認知症、メンタルヘルスを重点的に支援
いずれの国でも、デジタル脳的な研究、基礎研究、疾患研究・臨床応用が主要テーマになっています。一方で、日本は規模の大きさで競うのではなく、これまで蓄積してきたデータや研究資源をどう生かすかが重要だという見方も示されました。

デジタル脳をどう定義し直したのか

今回の会議で中心となったのが、中核拠点における「デジタル脳」の再定義です。岡部センター長は、従来の「脳の解剖学・生理学データを統合し数理モデルとして再構築するもの」という定義だけでは、現在の研究の広がりを十分に表せないと説明しました。
再定義の背景には、主に3つの考え方があります。
  1. 解剖・生理学データに限らなくても、脳機能の予測に役立つモデルがある
  2. AIモデルのように、内部構造の解釈が難しくても有用なものがある
  3. 遺伝子発現やエピゲノムデータも含めた統合モデルが必要になっている
その結果、デジタル脳は、「解剖学・生理学データを含む、それに限らない多様な脳データを活用した、脳の活動・情報表現・病態・遺伝子発現などの理解、予測、介入に有用な包括的な数理モデル」として捉え直されました。
重要なのは、単にモデルを作ることではなく、基礎脳科学や脳型人工知能、さらには疾患理解や診断・治療戦略に資することです。

「デジタル脳」「プラットフォーム」「データベース」を分けて考える

岡部センター長は、これまでやや曖昧だった用語の整理も行いました。今後は、次の3つを明確に区別する方針です。
  • デジタル脳:研究者が開発する数理モデル
  • デジタル脳開発プラットフォーム:モデル開発を支える環境
  • 脳統合データベース:これまで蓄積した脳データを格納・利用する基盤
この整理によって、研究者ごとに意味がずれていた用語をそろえ、個別課題との連携もしやすくする狙いがあります。モデル開発とデータ活用を分けて考えつつ、必要に応じて行き来できる構造を目指す方針も示されました。

デジタル脳研究の「5つの柱」

岡部センター長は、デジタル脳モデルとして重点的に進めるべき「5つの柱」を提示しました。いずれも、すでに蓄積されている国内データを活用しながら進める構想です。

1. PETデータを活用した疾患責任回路の同定

PETと機能的コネクトームを用いて、疾患に関わる回路を特定するモデルです。進行性核上性麻痺などの例が紹介され、タウPETやAMPA受容体PETといった日本発のプローブも活用可能だとされました。

2. 脳波計測データを活用したモデル

てんかんを中心に、発作焦点の推定や発作予測を目指すモデルです。深部脳の活動を記録できる硬膜下電極やSEEGのデータも強みとして挙げられました。

3. ヒト脳とマーモセット脳を対応づけるモデル

遺伝子発現、回路構造、回路機能を結びつける研究です。マーモセットの蓄積データとヒト脳データを組み合わせ、疾患関連細胞の位置推定などにつなげる構想が示されました。

4. 大規模脳画像データに基づく病態進展予測・層別化モデル

革新脳・国際脳で蓄積されたMRIデータに、臨床データや末梢血、エピゲノム、GWAS情報などを組み合わせます。脳年齢と生物学的年齢の比較を通じて、病態の予測や層別化を目指します。

5. fMRIデータを活用した全脳レベルの動的因果モデル

マーモセットの安静時fMRIやカルシウム活動データをもとに、全脳レベルの因果関係を含む動的モデルを構築する構想です。短期的な活動伝播だけでなく、神経回路結合の因果的な理解につながることが期待されています。

無理に全部を統合するわけではない

5つの柱は、将来的に相互連携の可能性を持つ一方で、岡部センター長は「無理に統合する必要はない」とも述べました。大切なのは、それぞれのモデルが目的に応じて価値を持ち、必要に応じて組み合わせられることです。
つまり、単一の万能モデルを目指すのではなく、複数のモデルを柔軟に組み合わせる戦略です。現実的でありながら、将来的な発展余地も残す考え方だと言えます。

個別課題との関係は「有機的な接続」

会議では、中核拠点と個別重点研究課題の関係も議論されました。岡部センター長は、個別課題の研究者が自分のモデルを中核拠点に持ち込み、Neuro-Workflowや中核拠点の数理研究者と相談しながら接続していく形が望ましいと説明しました。
一方通行の上下関係ではなく、研究目的やデータの種類、時間スケールに応じて接続先を探っていくイメージです。この柔軟さが、今後の連携の鍵になりそうです。

データの質、量、キュレーション、バリデーションが重要

委員からは、データの質と量、そしてキュレーションの重要性が繰り返し指摘されました。岡部センター長も、MRIデータの均質化のように、データを一定の基準でそろえて公開する作業が不可欠だと応じています。
また、モデルのバリデーションについては、国内だけで完結させるのではなく、EBRAINSなど海外の研究者との連携も視野に入るとの見方が示されました。デジタル脳の信頼性を高めるには、国際共同での検証が重要という認識です。

発達の視点も視野に入る

会議では、発達の視点が十分に含まれているかという質問も出ました。これに対し岡部センター長は、発達障害から精神疾患、認知症まで、ライフスパンを横断する形で研究を進めたいと回答しました。東京ティーンコホートのような発達期のデータも念頭に置かれており、デジタル脳は「完成形の脳」だけを扱うものではありません。
発達と病態をつなぐ研究としての広がりも意識されています。

まとめ

今回の脳科学作業部会では、脳神経科学統合プログラムの現状整理とともに、「デジタル脳」という言葉の意味を改めて明確にする議論が行われました。
ポイントは次の通りです。
  • 脳神経科学統合プログラムは、予算増額とともに一体的な推進段階にある
  • デジタル脳は、解剖・生理学データに限定しない、より広い数理モデルとして再定義された
  • デジタル脳、開発プラットフォーム、脳統合データベースは分けて考える
  • 5つの柱を軸に、国内の蓄積データを生かした研究を進める
  • 海外は規模だけでなく、brain healthやAI融合など戦略面でも先行している
  • 今後は、データ品質、国際共同、個別課題との接続、発達視点が重要になる
次回は、10〜11月頃に中間評価に向けた作業部会の開催が検討されています。デジタル脳の議論は、定義の整理から、実装と検証の段階へと移りつつあります。
参考:文部科学省「脳科学作業部会(第10回)議事録」

カシカンの使い方

スマホでかんたん貸出管理
カシカン
無料から使える貸出管理サービス「カシカン」の使い方を紹介しています。
カシカンの利用・登録はこちらから。
利用者インタビュー過去のエントリーよくある質問更新情報
YouTube Logo
Copyright © byus&co.,ltd. All right reserved.